目指すは一流美容師!
感性への憧れと、ロジカルな自分への葛藤
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ー9月にご自身のサロン『kelly.』をオープンされたということで、おめでとうございます。まず、齋藤さんのこれまでのキャリアについて少し聞かせてください。
もともとは表参道にある、いわゆる有名店でお世話になっていました。僕の母は群馬県で美容室を営んでいるのですが、最初のサロンに10年ほど勤めたタイミングで、そちらの経営のサポートもしたいと思うようになって。
自分は基本東京をベースに美容師をしながら実家のサロンも経営できる働き方ってないかな?と考える中で、ちょうどご縁があって『L.O.G』に移籍しました。勤めたのは2年半ほどでしたが、群馬のサロンを含めて3つの店舗を経営して、ビジネス的な視点やデータの活用方法がかなり身に付きました。
ー以前からいつかは経営者に、という考えがあったんですか?
実は全然そんなつもりなかったんですよ。自分が経営者になるなんて思ってもみなかったです。群馬から出てきて表参道で美容師を、というところで言うと、雑誌の撮影だったりヘアショーだったりクリエイティブな部分に憧れがあったので。でも、デザイナー気質というよりも勉強して発信していくタイプだったので、売上はトップクラスにまですんなり上げられたのですが、そういうチャンスには恵まれなかったですね。
ーお客様からの支持は集められるけど、憧れの仕事にはなかなか携われなかったと。
デザインをつくることに対しても人一倍ストイックにやってはいたんですけど、当時はサロンのテイストの枠が強くあったじゃないですか。その中で個性を出していくというのが、自分としてはどうも難しくて。売上を上げるとか、芸能人を担当するとか、自分の努力次第でなんとかなる部分を実現できるぶん、そこが葛藤ではありました。
ー学んだことを活かしたり、結果に結びつけるための探究心が強くあるんですね。
ロジカルなんだと思います。アシスタントの頃も、先輩から技術を教わるとき、感覚的に伝えられることが割と多かったんですよ。そういう環境の中でも「一流の美容師になってやる」という気持ちが強くあったので、どうやったら実現できるのか、探究する気持ちを持ったのかもしれないですね。
自分に適した学び方で学ぶ
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ー例えばどんなことに取り組んでいたんですか?
スタイリストの仕事をみながら、やっていることを全部メモに取ってたんです。カットだったら、髪を引き出す角度に対する切り口の組み合わせとか、セニングの入れ方とか、展開図に起こせるくらいまで理解するようにしていました。自分のようなロジックタイプにとっては、感覚的な教え方って、難しく感じてしまうんですよ。だから、他の人とは違う勉強の仕方をしようと考えて。
ーその後スタイリストになって、売上も順調に伸ばしていったということでした。実際に入客するようになってからつまずくことってなかったですか?
そこはスムーズでしたね。アシスタントの頃からデッサンを描くというのを習慣づけていたのが大きくて。これは僕が慕っていた先輩からのアドバイスなのですが、「撮影前には必ずつくりたい髪型を描いてから、その通りにつくれるようになれ」と口酸っぱく言われていたんです。
この成果もあって、顔立ちや首周りの特徴に応じてどんなデザインが似合うのか、提案に説得力を持たせられますし、実際にお客様にも受け入れてもらえていました。
あらかじめデザインをしっかり決めてから髪をつくるようにすると、全体像で捉えられるようになるんですよね。そこは自分的にも本当に勉強になりました。
ーヘアスタイルを提案する、自信につながったんですね。
スタイリストになると、練習せずにいきなりデザインつくろうとする癖が出がちなんですよ。僕はいまだに事前に練習すること、多いです。モデルになってくれる人をインスタで募集したり、「練習させてください」って街で声をかけることもありますね。作品撮りも、週3回はやるようにしていますし。
ーそれはSNS用に、集客も想定してということ?
おもに自分の成長のためですね。作品撮りは基本、自分がカットしているモデルさんにしかお願いしていないんですけど、同じ人でどこまでバリエーションをつくれるのか、というチャレンジを続けていて。お客様向けのリアルスタイルはもちろん、自分の勉強として、尖ったクリエイティブスタイルにも取り組んでいます。
あと、僕は「街を切り取る」というコンセプトで撮影しているのですが、今の街の空気感と衣装、そして髪がしっくり馴染むのか、それともズレているのか、自分の感覚の確認という目的もありますね。
トレンド・街の空気感・技術で
リアリティをつくる
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ーリアリティのある感覚を養うために、どんなものからインスピレーションを得ることが多いですか?
海外の著名人やデザイナーが発信しているスタイルからインプットすることが多いですね。技術に関しても、ブログやインスタ経由で海外美容師に「これどうなってるんですか?」と聞くことも前々からやっていたりもします。
どうしてもベクトルがズレた発信をしがちなところってあるので、美容師って。独りよがりにならずに、幅広くインプットしたいという意識はありますね。
ー実際にお客様にヘアスタイルを提供するときには、どんな風に落とし込むんですか?
お客様がよく目にしている「トレンド感」をちょっと入れ込みます。最近の傾向でいうと、SNSで見るモデルさんの髪型と、女優さんの髪型って違うじゃないですか。
モデル系はレイヤーが入っていたりするけど、女優系はパツっとしていてクラシックですよね。多くの一般女性がよく目にしているのは女優さんの髪型なので、そっちの要素を取り入れるようにしています。
個人的には、可愛いよりもお洒落って周りの人から言ってもらえるような髪型にしてあげたいんですよね。その人の魅力を引き立てるポイントを見つけて、ちょっとした変化をつけるだけでいいんです。いい意味で、爪痕を残し過ぎないスタイルなんですよ。
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ーそこには、デザイナーとしての目線に加えて、少なからずオーナーとしての目線もある?
確かに、自分が一プレイヤーだったらもっと尖ってたのかなと思う部分はありますね。オーナーとしては、もちろんデザインをつくることも大切ですが、スタッフを雇用し続けることや、数字をつくることも大事になるので、サロン全体に視野を広げる必要があります。その点では、2つの軸を育てていけるサロンにしたいと思っていて。
ーその2つの軸というのは?
技術面と数字面、つまり美容師としての売上をちゃんと立てられるようになることですね。例えば、SNSで成功している美容師って今を捉えてビジュアル化する能力がすごく高い一方で、幅が狭くなりがちだったります。
他方、技術に傾倒しすぎてもロジックが優先して、実際に街を歩いている人のリアリティに適わない。このジレンマってずっとつきまとっていると思うんですけど、お客様と一緒に年齢を重ねていくことを考えると、どっちの目線も持っていないと残っていけないと思うんです。
必要なタイミングで、必要な経験を積む
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ーこれからのサロン教育もその2つの視点を基にされると思いますが、どんなことを大事に伝えていきたいですか?
技術に関しては、「こんなニュアンスで~」みたいな曖昧な伝え方はしないです。学ぶべきときにはしっかり学んでベースを築くことが大切だと思うので、「売れそうだから早めにデビュー」ということも考えていません。
もうカリキュラムもできていて、他サロンさんの技術の考え方も例として挙げながら、肝となる部分を理解できるようなものにしました。最近だとブローやパーマをレッスンから外しているサロンさんもあるみたいなのですが、あえてそこもロジカルに伝えていこうと思っています。
数字面に関しては、デビュー後、とりえあず入客の経験をどんどん積んでもらえるようにしようと考えています。実は近いうちに新しい店舗をオープンさせる予定なのですが、そこは間もなくデビューを控えている若手達のためのサロンなんです。そこで実際にスタイリストとして働くことで、「技術はあるけど売上が伸びない」や「売上はあるけど、技術はまだ不安」だったりと、個人の能力値を図れるので。
美容師の仕事に誇りを持ち
活躍できる場をつくりたい
画像:齋藤さんのInstagram(@saito_jyunya)より
ーキャリア形成のタイミングに応じて、経験値として積ませる項目を明確にするわけですね。
タイプによっては都心よりも郊外のほうが活躍できる人もいますし、一プレーヤーよりも代表として色を出していったほうがいい人もいるんですよね。それを理解するうえで、二つの軸で能力を分析することが必要なんです。
長期的に雇用ないしは、パートナーとして独立をサポートしていきたいと思ったときに、「自分が本当に活躍できる場所はどこなのか?」という視点を育てていくことが大切なんです。そのうえでは、オーナーである自分も、数字面を含めて、具体的なプランを提示する責任があると思っています。
ー組織として、いろんな活躍の仕方をつくっていきたいんですね。
人間性やスター性で一時売れたとしても、きちっとしたベースがないと、その後続かないんじゃないかと思うんです。フリーランスの方からの話を聞くこともあるのですが、今の働き方に悩んでいる人も多いみたいで。僕自身独立した身ですが、最初のサロンで働き続けていたかった気持ちもやっぱりあるんですよね。一人になると、アドバイスしてくれる先輩もいなくなるわけですから。
だからこそ、サロンとして「活躍できる場所」を能力に合わせて見極めていくことが大事だと思います。上手くいかないからリタイアする…というネガティブな流れの受け皿という以上に、美容師という仕事を誇れる場をつくっていきたいですね。
PFOFILE
齋藤純也|kelly.
1987年10月25日生まれ。群馬県太田市出身。足利デザイン・ビューティー専門学校卒業後、都内サロンにて10年間勤務。2017年に『L.O.G』に入社し、3店舗の経営を手掛ける。そして2021年9月に東京・表参道に『kelly.』をオープンさせる。「街を切り取る」をコンセプトに、洗練されたヘアを多数打ち出している。また、SMAJ(Salon Model Award Japan)2017にてグランプリを獲得。