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技術のアップデートとインストール / 米澤香央里さん[SYAN]

カリキュラムで練習した技術だけでは、売れないのが今の時代。このインタビューでは、“ツールとしての技術”から、お客様を魅力的にするための“生きた技術”にアップデートするためのヒントを探っていきます! 第二回は、『SYAN』クリエイティブディレクターの米澤香央里さん。20代は『暗黒期』と形容するくらい、自身の向かうべき道が見えていなったそう。そんな彼女が、一体どんなインストールとアップデートを繰り返してキャリアを築いてきたのか、半生を振り返りつつ語ってもらいました。

美容に向き合えなかった20代

ー雑誌撮影やヘア&メイクなど、幅広いフィールドで活躍されていますが、これまでどんな風にキャリアを積んでこられたんですか?

美容師になって18年になりますが、20代は本当に方向性の見えない暗黒期でした(笑)。もともと雑誌で活躍したいと思っていたので、メイクスクールを併設したサロンに就職したのですが、外部活動をあまり行っていない時期と重なってしまって…。メイクスクールも廃校になってしまったんです。

とりあえずスタイリストに昇格するまでの3年半はお世話になって、その後は面貸しやレセプションのバイトをしていました。

 

ーいきなりの挫折…だったわけですね。その中でどうやってモチベーションを保っていたんですか?

正直、美容に向き合うことはできていなかったと思います。最初のサロンはカリキュラムもしっかりしていたのですが、積極的に取り組んでいたかというと、義務感でやってる感じ。いよいよ“ヤバい”と実感したのは、面貸しサロンに入ってからでしたね。

 

 

技術のなさを痛感
足りないものを補う日々


米澤さんのInstagram(@kaori_yonezawa)より

ーそこでどんな体験や出会いがあったんですか?

とにかく自分の技術の少なさを痛感しました。当時は有名店出身の方が、出店のための資金づくりとして働いていることが多くて、みんな美容に対して熱いんですよね。

その中で私だけヒマだったり、お客様からのクレーム、リターン率の低さが目立って「私、美容師としてヤバい!」となって。

営業後に技術を教えてもらったりもしましたし、レセプションのバイトの頃はメイクスクールにも通ったり、知り合いのヘアメイクさんのアシスタントをしたり…とにかく足りないものを補う感じで、28歳までそんな生活をしていました。

 

 

29歳で決意したリスタート

 

ー周囲の美容師さんたちの仕事に触れて、触発されていった部分があったわけですね。

技術を習得するうえでの必死さを学べたのは大きかったですね。メイクスクールでは、40代のオーナーさんや遠方から通っているクラスメイトも沢山いて、学ぶ熱量やひたむきな姿勢を目の当たりにできました。

面貸しサロンでも、店長に言われて…というか叱られたことですごく残っているのは、「言われたことを全部筒抜けにするのか、自分の引き出しに入れて自分の言葉で理解するかで全然違うよ」ということ。

楽しくやるのも面倒臭がるのも自分次第だし、その違いで吸収力や集中力って全然変わるんですよね。一言一句逃していいものなんて一つもないんだ、と痛感しました。

 


ヘア&メイクを担当したアパレルブランドのルック。
米澤さんのInstagram(@kaori_yonezawa)より

ー20代はまさにインプットの連続だったのですね。今の米澤さんにつながるターニングポイントを挙げるとしたら?

一番の転機は29歳のとき、SYANの前身であるkokoroに入ったことです。当時口にするのは恥ずかしかったのですが、雑誌に載りたい、挑戦したいという気持ちはずっとあって、リスタートを切る決意で入社しました。

結果的に1年後にSYANが立ち上がることになるのですが、kokoroでの1年間はとにかく技術や作品撮りのスキルを改めて磨いた意味でも、私の美容師としての再出発でした。

 

 

憧れの美容師さんとの出会いで
やりたかったことを発見


米澤さんのInstagram(@kaori_yonezawa)より

ーそこでご自身の作品の方向性だったりが築かれていった?

それにはまた別のキッカケがあるんです。当時、というか今もですけど、すごく好きな美容師さんがいて、本当に憧れてて。その方にカットしてもらいに行ったんですよ。ワンレン鎖骨下から、お任せで雰囲気を変えてもらおうと思って。

それで切ってもらったスタイルが、レイヤーのマッシュウルフだったんです。それから選ぶ洋服も変わったし、Tシャツ、デニムでもキマるし、「美容師ってすごい職業なんだ!」と改めて痛感させられて。

見様見真似なんですけど、切り方を自分なりにやってみたら、すごく楽しくなっていきました。私、レイヤーとショートが好きなのですが、レイヤーはその美容師さんからのインスパイアなんです。それまでは、できないことを補っているだけで「自分はコレ!」というのがなかったのが本音で。

 


ヘア&メイクを担当したアパレルブランドのルック。
米澤さんのInstagram(@kaori_yonezawa)より

ー10年かけてやっとやりたいことが見えてきたわけですね

ちょうどSYANの立ち上げとブランディングをしていく時期と重なっていたこともあって、作品作りにも熱が入りましたね。まだ特化のツールとして確立していなかったインスタグラムも活用したりして、徐々にWEBメディアや一般誌、業界誌にも取り上げられるようになっていきました。

そこからですね、「ちょっと違和感のあるかわいさ」が自分のスタイルとして確立していったのは。特化できるものが見えてきたことで、アパレルのルックやブライダル関連だったり、私個人の仕事の幅も広がったと思います。

 

 

年に1つ
美容を通したアップデート


写真展(左)と富山のサロンでのヘアメイクイベントの様子(右)
米澤さんのInstagram(@kaori_yonezawa)より

 

―これまでの経験から様々な要素を取り入れてきているわけですが、自分のものするポイントってありますか?

本当に好きなものって、自然に身についちゃうところがあるんですけど…。そうですね、真似することからで全然いいっていうのは思いますね。

私が憧れの美容師さんに髪を切ってもらったときもそうなんですけど、絶対見落とさない! という気持ちで見て、まずは全部吸収することが大切かなと。

あと、1年に1つ、去年の自分をアップデートできる事をするのを目標にしています。

 


2020年に立ち上げたヘアアクセサリーブランドのルック。
valo adornmentsのInstagram(@valo_adornments_official)より

―どんなことを行っているんですか

ここ数年ですと、3年前には大阪のルクア イーレという商業施設からお声掛けいただいて、写真展を開きました。撮りためた作品を形にしたい想いもあって、写真集を300部自作して販売もしましたね。

翌年は友人でもある富山のサロンさんでのヘアメイクイベント開催、その次(昨年)は自分のヘアアクセサリーブランドの立ち上げと、美容を通したアクションを必ず行っています。

1年ってあっという間に過ぎてしまいますし、思い返したときに何か残るものをやると決めていることで、インプットにも敏感になれるんです。

 

―ちなみに、今年挑戦したいと考えていることはありますか?

SYANのブランディングの部分で、若手のスタッフにもスポットライトが当たる環境にしていきます。これまでは撮影なども私がリードしていたのですが、みんなが主体的に取り組めるようにしたいと思っているんです。

実は、新型コロナの一件でサロンとして改めて気付かれたことが沢山あって。スタッフみんなの個性や強みをより発揮できる場として、SYANのブランドを高めていきたいんです。

 

 

「当たり前」とスルーせず
一つひとつ大切に

 

―様々な経験を通してご自身のスタイルを確立してきた米澤さんが、お客様に技術を提供する際に大切にしていることは?

より心地のよいものをつくりたい、というのはありますね。お客様が可愛くなるためには、私自身の技術はもちろん、お客様自身にも意識していただくところってあると思うんです。

技術をただ説明するだけじゃなくて、こうするともっと可愛くなりますよ、というアドバイスをすることで、より心地のよいものができるんじゃないかと。

やっぱり、お客様のことは全部分かっていてあげたいんです。髪質もですし、好みの雰囲気も。お客様にとって美容師はオンリーワンだから、すごくシビアに見られてる。美容師にとって「当たり前」のことでも、相手のことをちゃんと考えて、バランスよく伝えてあげる優しさが大切だと思うんです。

 

―最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします!

チャンスは誰にでも起こりうる、というのはお伝えしたいです。私自身、華やかなキャリアを歩んできたわけじゃないですし、無名の一美容師だったからこそ、やり続けることの美学を実感する部分もあって。

だから、インプットしていくことって大切なんですよね。もちろん真似だって全然あり。日々何かを考えて、楽しみながら、取りこぼさずに自分のものにしていくことで、掴めるものがあるんじゃないかと思います。

 

 

PROFILE
米澤香央里 [SYAN]

1982年4月30日生まれ。千葉県出身。日本美容専門学校卒、資生堂SABFA卒。都内3店舗を経て、SYANのオープニングメンバーとして参加。現在はクリエイティブディレクターとして、店内の撮影教育、外部撮影活動など幅広いフィールドで活躍。洋雑誌や写真集、映画などからもインスパイアを受け、自身のセンスを日々磨き続けている。

 

 

 

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