座談会「これからのカットの学び方」第2回

従来のベーシックカット、ベーシックスタイルの教え方・学び方について意見が交わされた第1回座談会。若い世代向けのヘアスタイルには、今あまりフォルムは求められない。けれどもミドルエイジ以降のお客様を獲得したいと思ったら、フォルムコントロールは必須になってくる。議論は「それなら2段階に分けて学べばいいんじゃない?」 という方向に動きました。

PANELLIST
畠山 篤さん[ALUX:写真左] / 武田 敦さん[BLESS:写真中] / 菅野太一朗さん[LANVERY:写真右]

後ろから切る前下がりのスタイル、
どれくらい練習する? 

編集部:確かに、エイジング毛のお客様が増えてきたらフォルム作りの必要性は感じるだろうけど、若いお客様には今のデザインだとあまり出番がないですからね。練習するにもモチベーションが上がりづらいですね。

畠山:やる気が出るのは、学ぶこととお客様の層が一致してこそだと思うんですよ。いや、ほんとはあるジャンルだけやってると実力は身につかないから、いつかは広げなきゃいけないんですけどね。ただ、たとえばお客様にコンサバ系の人が多いんだったら、圧倒的にロングが多いはずで、スタイルの幅を広げるにはフォルムをどうこうするより、顔まわりがメインになってくる。お客様にキュート系が多いんだったら、シャープな前下がりのベーシックスタイルの習得に半年かけてるのはどうなんだろう、ということなんですよね。

編集部:その間に脱落してしまう人がいるかもしれませんね。

畠山:もちろん前下がりのグラを切る技術もすごく大事だから、いつかは習得しなきゃならないんだけど、それは段階を踏んで後からでもいいというのが僕の考えです。20代美容師にモチベーション落とさずに練習してもらうには、彼らがやりたいスタイルを題材にするのがいいんじゃないでしょうか。そのスタイルはフォルムもラインも完璧には出さなくていいし、削ぎもセニングシザーだけでオートマチックでいい。だけどモデルの子の前髪やサイドの髪、どう切ったらいちばんかわいいかな、ということだけは考えてもらう。そこが大事だと思うんですよね。

編集部:顔まわり重視ということですね。ベーシックスタイルは後ろから切ることが多いけど、それをTOMOTOMOの誌面で解説すると、どうしてもフロントって説明が薄くなっちゃうんですよ。

武田:ヘアスタイルって基本的に、デザインのポイントがある部分から切っていくのが合理的で、ベーシックスタイルは後ろに見せ場があるスタイルが多いから、それはある程度仕方ないんですよね。だけど今のスタイルは、前から切っていった方が決まりやすいスタイルがメインなんじゃないですかね。特に若いお客様の場合。でも美容師って習性なのか、何故か後ろから切ることが多い。なんでかな、お客様から見えない部分だから安心できるんだろうか(笑)。

菅野:正面から切る勇気がないとか?

武田:ねえ。たとえばバングがポイントになるのであれば、バングのレングスだけでも先に切らないとサイドの量感とかが変わってきちゃうから、本来バングが先のはずなんですけどね。

畠山:やっぱり、カットをプロセスで覚えてしまうから、そういうことが起きてしまうんだと思いますよ。

スライスの厚みとスライスライン、
ベーシックと応用

編集部:かなり細かい話になりますが、カットの際には髪をきちんと濡らして、スライスは薄めに、スライスラインはまっすぐ、みたいなベーシックがありますよね。でも今のヘアスタイルを作るにはけっこう早い段階でドライにして切ったり、スライスの取り方も髪質や作りたいデザインによって変わってくる。こういったことも新たなベーシックとして考えていかないといけない時期にきてるんじゃないかと思うのですが。

武田:僕はベースの部分はウエットで、スライスラインも基本的にまっすぐ切りますけど、スライスの細かさは、可能であれば厚めに取りたい方。仕事のスピードを考えるとそうなります。ただ、毛量やデザインによって、必要であれば当然細かく取りますよ。頭の箇所によってカーブがきついところを厚く集めちゃうと、難しかったりしますし。厚ければ厚いほど歪みがでるので、ちょっとのずれが致命傷になる。厚くてオンベースで切ろうと思ってたのが、オンベースじゃなくて、どちらかにダイレクションがかかってたら、その一発がずーっと影響していって、全然違うものになっちゃう。それが起こらないギリギリの厚さで、ここでしかないっていうところで切れたときに、ちょっと自分で喜びを感じる(笑)

菅野:ウエットとドライの切り替えは、「どう切ってもこうにしかならない」ところまではウエットで切るという感じですね、僕の場合。そこから先はその髪質ならではの個性が出てくる、というところからはドライにして切ります。

編集部:なるほど。スライスについてはどうです?

菅野:僕はレングスが長ければ長いほどスライスが厚くて、短ければ短いほど細かくなる。ロングだとパッと切って、ある程度出来あがるじゃないですか。ショートはそういうわけにはいかなくて。スライスの厚さによるゆがみが、ロングはそんなに目立たないけど、ショートは出ちゃうから、そこは必然的に細かくなりますね。あと、髪質でいうと、クセ毛は厚くとって切りますね。普通はゆがみが気になるからあまり厚くとって切らないけど、クセ毛の場合は逆にずれちゃってもいいじゃない、と思ってるんですね。

武田:長さがある場合ですよね。短いクセ毛で、ずれた時はひどかったりするじゃないですか。最終的なスタイルの絵が見えてて、ずれもかわいいみたいなのが、ロングだったらある程度許せるけどみたいな感じなんですよね。

畠山:僕はくせ毛の場合は、活かすかつぶすのかで決めます。くせを消しちゃいたいならスライスは薄くとるし、活かすのなら厚めにという感じですね。あと、横スライスの場合はケースによって厚さを変えるけど、縦スライスの場合は変えないです。

編集部:それはなぜ?

畠山:縦の場合、幅が広くなるほどオーバーダイレクションが変わってくるから、その結果前下がりになる角度がありかなしかというのが問題で、あまりくせ毛に影響しないように考えてるんです。横の場合は浮きになってくるので、濡れてしまった雑誌の束みたいなものですよね。中がウエーブになってて、それの浮き沈み。だからスライスの厚さで調整しするのもありかと。あと、くせ毛の場合はスライスというよりもう少し大きく、ブロックで考えていますね。トップからネープまでつなげて考えるとくせは見にくいから、ブロックに分けて切り分けないと。

軸はシンプルな方がいい。
ただしこれからのベーシックは、
軸から展開するところまで広がるかも

編集部:考慮しなければいけない要素が多過ぎて、ウエットかドライかの問題も、スライスの問題も、ベーシックとして定義するのは大変そうですね。ちょっと聞いただけでもいろいろ出てくる。

菅野:教える側、学ぶ側にとっても「軸」って必要なので、たとえばスライスの問題だったら、ベーシックはまっすぐでいいんじゃないですか? それを軸として、いろいろ自分で考えられるようになれば。ベーシックはわかりやすくてシンプルなのがいいと思いますよ。でもなんでもそれで通用するわけじゃなくて、場合によっては変化させていいんだよっていう頭の柔らかさも同時に教えなきゃいけないのかもしれない。変化と言っても何やってもいいわけじゃなくて、そこに理由があるのであればアレンジする、変えてみる、という意味でね。

武田:ベーシックとして考えるなら、スライスは直線でいいでしょう。ただ、頭は直線で構成されてないんで、不具合が出てきたときにどうするか、そこに対してどうアプローチしていくのかっていう風に考えた方がわかりやすいですよね。ケースごとに、こういう場合はこういう対応が必要になるというのを整理して見せてあげるしかないのかなと思います。そうすることによって幅を広げ、もっと活きたベーシック、使えるベーシックになるんじゃないかと。

畠山:今はどうしても従来のベーシックから先が必要な状況になってしまっているから、こういう話になるわけですよね。本当は習ったことを自分でアレンジできればいいんだけど、なかなかそれも難しい。さっきも話したけれど、習ったものをそのまま誰にでも作ってしまったりすることも起こるわけじゃないですか。僕は活きたベーシック、使えるベーシックとなるとやっぱりお客様側からの視点が入らないといけないと思うんです。その視点で従来のベーシックカットを見てみると、あれ、これってこう習ったけど、実際はこうやって切った方がいいんじゃない? という考えも浮かんでくるんじゃないかと思うんですよね。

編集部:いろいろ参考になるお話が聞けました。今後カットの学び方・教え方について情報発信するなら、時代に合っているという要素と、形を作るというカットの本質、両方とも失いたくないと思っています。今日はどうもありがとうございました。

(完)