座談会「これからのカットの学び方」第1回

美容師のなり手が減り、離職率が高いとされる今、どのように技術教育を行うかは大きな課題です。従来のベーシックカット、ベーシックスタイルの価値を活かしつつ、サロンで使える「生きた技術」にするにはどう考えたらいいのか、3人のオーナー美容師さんに聞きました。

PANELLIST
畠山 篤さん[ALUX:写真左] / 武田 敦さん[BLESS:写真中] / 菅野太一朗さん[LANVERY:写真右]

メディアに出てる人たちと
自分が練習してるカットは違う
それは何故かってずっと思ってた

編集部:夜サロンの前を通ると、若い美容師さんが熱心にカットの練習をしているのをよく見かけるんです。ワンレンやグラボブを、マネキンで一生懸命カットしてる。だけどそこまで熱心に練習したテクを、実際の仕事に落とし込めてるかというとちょっと疑問なんですよね。美容師さんたちも、営業でやるスタイルとベーシックは別モノって割り切ってるところもあるし…。ずっと前からこの状況はあったのかもしれないけど、最近はもう乖離が大きくなり過ぎてるような気がします。

武田:僕がカットを習った時代にも既に、ブラントカットは基本として身につけて、でも実際はもっと柔らかい質感が欲しいからセニングを足して…というのが一般的になっていましたね。そして時代が下るにつれて、ヘアスタイルに求められるものが他にもどんどん増えてきたでしょう。外国人風の質感だったり、髪質や生えグセへの対応だったり、お客さんが求めるものもそれぞれ違って、形を作る、ラインを切るというベーシックな要素以外に必要なことがたくさん出てきて。基本も大事だけど、僕はやっぱり、今はセンスと言われる部分とか、似合わせだとか、素材である髪質を見極めるということが、ものすごく求められる時代だと思うんですよ。ただ、いざ何かあった時に、ブラントカットや骨格を意識したベースのカットができていれば戻る場所ができるので、それは強みになると思うんですけどね。

菅野:うちのサロンでもブラントカットで形を出すっていうベーシックはあるんですけど、実際現場では使えないんだよなあって思っている子もいるかもしれません。ある程度年輩のお客様を担当するようになると、ちゃんとフォルムを出すとか、そういうカットが必要になるんですけど。若い美容師が担当する若いお客様のヘアスタイルって、毛量調節だけで完結するようなものも多いですよね。だからしっかり切るとかいうよりも、削ぎ方の方が若い子にはピンとくるんでしょうね。毛量調整の方は教え切れてないところがあるから、むしろそっちを教えてほしいと思っているかもしれないです。

畠山:僕は今30代後半なんですけど、僕の世代あたりだとほんとに基本と現実と、両方半々ずつ見させられたという感じがします。つまり、練習ではがっつりサスーンのカットをやらされてるけど、メディアに出てる人たちは違うカットをしている。じゃあ僕らが学んでいるモノと、そのデザインを作っている人たちとの感覚の違いってなんなんだろうってずっと思っていましたね。

編集部:そういう風に思っていた畠山さんが、今カットスクールの講師をやっているわけですね。

畠山:ええ。だから教え方に関してはいろいろ悩みますね。ベーシックを現実に活かすには、覚えた中でどの部分を活かすか、どの部分を使わないかの選択だと思うんですけど、選択できない子もいるんですよ。いったん覚えちゃうとそこから抜け出せずに、20代の子にも40代の人にも50代のお客様にも、同じベーシックのカットで同じウエイトを作っちゃったり。ベーシックスタイル自体はそのカットが一番見えやすいひとつのデザインに過ぎないのに、スタイル自体を覚えてしまうようなことがあって。

今の子たちが持ってる
“いいところ”は
損ないたくない

武田:技術って本来作りたいものを自由に作れるためのものなのに、頭が固くなっちゃうのは勿体ないですよね。僕ほんとに思うんですけど、今の20代って、スタイリングが上手だしニュアンスを作るのが上手でしょ。それをカットで捨てないでほしいんですね。大前提として、フォルムを作れること、残したいウエイト感を残せることができていれば、削ぎを入れていいと思うし、自由な発想で切ればいい。自分の味を出せるようになるためにね。ドライの状態で、動きが見られるところでニュアンスを作っていくこととか、これからもっと、大事になってくると思うんですよね。

菅野:形をつくるのと質感を作るのと、どちらかに偏らずに両方うまく使いこなせるのが一番いいんでしょうね。僕は最初に入ったお店で形の作り方を叩き込まれて、次の店ではみんなレザーを使ってて、もういきなり真逆の環境に投げ込まれた感じで。それまで素材に対してがっちり切ってたのを、ノーテンションで切って、質感を重ねて形を作るみたいな考え方に触れたわけです。たまたまだったんですけど、両極端のカットを経験したことで、今はちょうどほど良く間を取れるようになったような気がします。

編集部:それは菅野さんの中でまとまっているんですか。第3者と共有できるように。

菅野:あくまでベーシックは考え方とカタチ。そのカタチを作るための、目的に対しての考え方。そして似合わせとか素材を見極めながら、髪の重なりを最終的にデザインとして作っていく……みたいな。うーん、それがもっと一緒にできるようになるためにはどのようにすればいいのか(笑)

一同:

菅野:自分は端と端をやってきたので、なんとなくその間を、無意識に行ったり来たりしてるんですよね。

畠山:僕はいろいろ考えて、ベーシックカットのスクールでは、削ぎのカットまで入れてゴールにしました。削ぎまで入れてセットっていう風にしないと、若いお客様なのに、かっちりした動きのないベーシックスタイルを切っちゃうみたいなことが起こるので。そして、取り除けるものは除ける思考も必要だよねと思います。たとえば、正確なカットをするためにはスライスって細かくとった方がいいんでしょうけど、今どきの切りっぱなしのボブ、あれを2センチのスライスで全部切っていったら、僕たちからしたら「は?」っていう時間がかかるわけじゃないですか。「それ5分で切れるでしょ」っていうスタイルですら、ベースを切るのに20分、30分かけてしまう、っていう風に覚えられてしまうのが怖いんです。

菅野:そのデザインだったらそのテクは要らない、というのが取り除くということなんですね。

畠山:そうなんです。技法だけを覚えられてしまって、必要ないのに使われてしまうのは困る。そうなると、カットって原理しか教えない方がいいのかなあと思えてくるんですよね。切り方やプロセスじゃなくて。

武田:原理は教えるから、後は自分の頭で考えてねってことですよね。

技術を覚えることは
本来その人を
“自由”にすること

武田:若いお客様ってそんなに立体感があるヘアスタイルって好きじゃないから、カットでフォルムコントロールができなくてもそれほど問題にはならないじゃないですか。それはそうなんだけど、僕はフォルムコントロールって似合わせの視点でとらえると、これからもっと重要性を増すと思うんです。立体感のためのフォルムじゃなくて、その人に似合わせたいからこのフォルムを作りたい、という時ですね。その時にその形を作れる技術がないというのはまずいでしょう。

編集部:カットでフォルムを作るという概念が、今そもそも薄れてきていますからね。

武田:若い世代にとってヘアスタイルのウエイトって、アイロンで強く巻いた部分のことですもんね。でもそれはそれでいいと思うんです。アイロンで自然なニュアンスっていうのを出すのが、今の子たち、めちゃくちゃ上手いんだから。他人が切った髪でも、そこそこスタイリングで作れたりするから、カットの技術を高める方になかなか行かない……でも本当は、ここをもうちょっと切っておけば、もうちょっとこう動くからいいのにな、ってところもあると思うんですよ。そういう発想をしない時代がちょっと長かった気がするんですよね。今やっとそれに気付いてきた子たちが増えてるのかなって思うんですよね。

畠山:僕は、美容師さんが今何歳なのか、どの世代なのかによって求められるカットのスキルがすごく変わると思うんですね。だから効率的に教えたいとなると、年齢によってカットのベーシックって変わってくるんじゃないかと思うんですよ。うちは「20代で教えるベーシックと、30代になってもう一回ベーシックをワンランク上げるのを教えるので」っていう風に分けてるんです。

編集部:2段階。ベーシックの2段構えですか。

畠山:さっきお話にも出てたけど、若いお客様のヘアスタイルには今だとあまりフォルムを作る技量は求められないかもしれない。けど、お客様が年齢を重ねていってエイジング毛になってきた時に、トップのボリュームを出したい。じゃあどこをどう削っていくのか、コーナーをどう作ってトップの主張をどう作るのか、っていう作業になったら、絶対フォルムコントロールが必要になってくる。でも実際、20代前半の美容師で、50代60代のエイジング毛の、トップにボリュームが欲しいお客さんをそうそう担当できないですからね。だったらその技術はもう少し後から学べばいいと思うんです。

(座談会「これからのカットの学び方」第2回 へ続く…)